出世したいなら捨てるべき「4つの美徳」

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普段の仕事では気にしたくない組織内での序列も、意識せざるをえない時があります。

自分が組織の中で確固とした地位を手に入れたかどうか、計るものさしのひとつは、不況のときに、「誰のクビを切ったらいいのか?」という議論に参加できるか否かである、というジョークがありますが、この言葉は無視できない冷たい現実の一端をとらえてもいます。

特定の技能が高ければ安泰、とも言えない時代です。技術革新によって、必要とされる技術が進歩を続ける業界では、古参の技術者の立場も安泰ではありません。思うとおりに仕事を続けたいなら、地位や肩書きが誰でも必要なのです。

問題は、得たいと思う立場をどう得るか、私たちが知らないことです。ここでは15~16世紀にイタリア・フィレンツェの外交官・政治家だったマキアヴェリが書いた名著『君主論』から、現代に通じる出世の条件を分析してみます。

説明することが難しいと感じるかもしれませんが、一般的な定義は以下のようにまとめることができるでしょう。

「権威」=ある分野で抜きんでており信頼があるか、心理的に服従させる力

「権力」=他人に何かを強制することができ、物理的に服従させる力

 

簡単に区別するなら、権威は心理的な効用であり、権力は物理的に相手に何かを強制できる力です。たとえば、政府の権威が失墜(信用を失う)しても、政府自体の権力は失墜しないわけです。世の中を見渡すと、人間を動かす力学はほぼ権威か権力の2つであることがわかります。人を動かすこの2つの力学を500年前に明確にしたのが『君主論』です。

『君主論』は、歴史上のほとんどの偉人が最初は権威をその身に集めて、次に権力にすり替える形で台頭したことを教えています。何かの問題解決の実績を挙げて信頼を得たり、周囲の人に心理的に頼られたりすることが権威の小さな出発点です。

紀元前3世紀にシラクサという国を支配したヒエロン2世は、都市を防衛する市民隊長に選ばれ、その後の功績で推挙されて王になりました。イタリアではマキアヴェリの時代、フェルモという街のある人物が、軍務に精通していたため、軍団の第一人者になりますが、しばらくのちに町の有力者を皆殺しにして、王の地位を手に入れてしまいます。

歴史上のこの2人の人物を見ると、最初に権威を身に集めて、次に強制力を他人に発揮できる権力に変えていったことがわかります。現代でも、ビジネス組織では出世のためにまず“一目置かれて”権威を得る必要があり、その権威の結果として肩書きを得ることで、周囲に命令するなどの強制力(権力)を段階的に手にすることになります。

唯一の例外は、二世後継者など地位(権力)を先に得てしまうパターンです。この場合、新社長という肩書(権力)は手にしますが、トップに相応しい権威(心理的な信頼関係)がない場合は優秀な社員が辞めてしまうなどのトラブルも起こります。新社長は信頼や頼りがいなど、自らに欠けているものを急いで補う必要を『君主論』も強く指摘しています。

しかし世の中の出世のほとんどは「①権威を得る→②権力を手にする」のパターンであり、思うほど出世できない残念な人はこの“権威を得る”という出世の第一段階を知らず、無視して努力をする共通点があるのです。

ビジネス社会において、仕事ができることは基本です。しかし勘違いしたくないのは、仕事ができることイコール出世とは限らないことです。多くのビジネスパーソンが実感しているように、出世する能力とは仕事ができるという基盤の上に、さらに別のプラスアルファが必要です。

もうひとつのハードルは、特定の仕事で優秀な人物を昇進させると、会社に損失がでると考えられている場合です。技術職や特定のスキルに飛び抜けている人は、その仕事の成果ゆえに人事異動をさせたくないという意図が働くことがあります。

マキアヴェリの『君主論』は、支配者の立場になる方法、支配者となった場合にその地位から転落しないための戦略を扱っています。では具体的に、思うほど出世できない状態を突破するのにはどうしたらいいでしょうか。

「そうであるべき」という一般的な美徳は、現実に出世をしている人の行動原理とかけ離れていることがある。マキアヴェリは、表層的な美徳を軽々しく信じている人間は破滅を思い知らされるのがオチだとまで書いています。以下は『君主論』から考える、出世したい現代ビジネスパーソンが捨てるべき4つの美徳です。

① 直属の上司に一途であること

配属先の上司に忠誠を誓うのは、上司が自分も上まで引き上げてくれる器量がある場合に限るべきです。上司は自分のメガネで人を評価するため、多面的にこちらを見てくれることは稀(まれ)です。だからこそ他部署の人たちとも積極的に交流を図り、彼らと信頼関係を結び、会社の全体像やより大きな課題への理解も進めておくことが望ましいのです。

ルイ・ヴィトンの米国法人CEOとなったマーク・ウェバー氏は、駆け出しのアシスタント・デザイナーだったころ、デザイン部門ではなく製造部門の部長からも信頼を得たことが最初の出世につながりました。

人は、自分の権力の輪の中にだけいる人間を軽視する傾向もあります。ところが、別部門のトップからの評価や信頼関係は、上司や周囲があなたに一目置く“権威”を生み出すことにつながるのです。

② 付き合いがよく、人間味があること

なにもないところから権力を手にするには、まず“権威”を身に付けることが重要だと先に説明しました。その意味で「誰と」付き合いがよいかが問題になります。上司や他部署の上司、客先との交際であれば、ぜひ参加をしたいところですが、一方で同僚と毎週飲みに出かけることは、あなたに権威を生みません。

人を選別している、と言えば冷淡に聞こえます。しかし、複数方面からの支持や信頼関係を持つことは、権威を育む基本です。そのため、付き合う人を計算して生きていくことが、社内政治に限らず最初の階段を登る機会になるのです。

③ 初志貫徹を信念にすること

最初に決めたことを、守り通していくことは日本社会では美徳とされています。しかし流れの速い現代社会では、決定の要因だった前提が崩れてしまうことも多く、こだわりが過ぎれば、会社にも損失となりかねません。自己流の仕事方法も同じで、通用する時期とそうでない時期は必ずやってきます。

マキアヴェリはよい意味で、君主には風見鶏のような能力が必要だとしています。運命が風向きを変えたとき、その方向に沿って素直に自分を変えていけるかどうか。社内で花形だった部署でさえ、3年後は衰退している可能性がある現代です。流れの速い世界では、うまくいっている人や流行、他社の尻馬に乗るような軽さも求められるのです。

④ 親しい部下に奢ってやること

権威という意味では、部下に奢ることはほぼ無意味です。むしろ彼らを厳しく扱い、仕事のできる人間に一日も早く育てるべきです。あなたの現在の仕事を彼らに任せることも出世の道です。管理では、人情主義もむしろマイナスです。新人の遅刻の言い訳を受け入れてやると、次に別の者が遅刻した際にも言い訳を聞いてやらねばなりません。

『君主論』が教える正しい部下の取り扱い方は、マイナス点には厳しく冷酷に対処して、部下がよい実績を挙げたときに「大げさに褒めてやる」ことです。高い実績や成長に評価を与えることは、部下のやる気を高めると同時に、褒めたあなたの権威も高めることになるからです。このような時、少し特別なお店に食事に連れていって奢るならよいでしょう。ほかの部下に「俺も同じようになりたい」と奮起させる効果もあります。

以上4つのポイントは、いずれも「権威」という出世の前段階の力を手に入れる視点から導き出されています。会社内を見渡しても、いい人が出世していないことはザラです。それは彼らが人間味にあふれていても、出世に必要な権威と権力について無知な結果なのです。

出世において上役にゴマをする、媚を売るなどの“技術”はどうなのでしょうか。『君主論』は不思議なほど、相手にゴマをすることに触れていません。理由は恐らく、上司に媚を売ることで引き上げてもらうと、相手に首根っこをつかまれたような状態になってしまうからでしょう。

ゴマをする者は、相手から軽んじられてしまいます。それは不安定な状態です。一方で『君主論』は、相手の困りごとをチャンスにする、別の勢力も味方につける、一人の上司に引き上げられたときは実力を大急ぎで身に付けることを説いています。

さんざん媚を売った相手が出世街道から脱落すれば、ほかに手を打っていない場合は一緒に脱落する以外に道がありません。『君主論』は支配力を固めながら出世するための書であり、心もとない立場に陥ることを避けているのです。

名著『君主論』におけるマキアヴェリの主張と提言は、人を動かしている権威や権力について「勘違いした人間になるな!」ということです。権力の構造は、知らなければ一生気づかないで終わってしまう種類の知識です。多くの人は普段から目の前の仕事に忙しく、権力や出世についてあまり考えません。結果、出世の道はどんどんと遠ざかってしまうのです。

なんらかの地位を得るために、社内政治が大切だとは誰もが知っています。しかしその「社内政治」が、どんな力学で動くのか見抜いていなければ正しい振る舞いは不可能です。すでに述べてきたように、出世の第一段階で身に付けるべき権威は、目の前の上司にひたすら媚を売るだけで手に入るものではないのです。

最後に『君主論』の重要な指摘をお伝えしてきます。権威も権力も、執着心がある人間ほど手にすることです。これはお金にどん欲な人がお金に恵まれることと同じです。そして、すでに地位を手にしている人は当然ながら権力への執着心が人一倍強い種類の人たちです。このような人と、正面から激突するのは得策ではありません。

庶民は恨みを忘れがちですが、権力者は正反対なのです。そのため、上位者と本気で衝突したときは、その組織から飛び出して、新たな環境で出世を目指すことも選択肢に入れるべきなのです。

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